睡眠時無呼吸症候群でのゼップバウンドの使い方
どんな病気に使う薬として認められたか
閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間にのどの空気の通り道がつぶれることをくり返し、ふつうの呼吸ができなくなる病気です。
重さは、眠っている1時間あたりに呼吸が止まったり浅くなったりする回数で表します。この回数をAHI(無呼吸低呼吸指数)と呼びます。
ガイドラインによると、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)でAHIが15以上30未満なら中等症、30以上なら重症です。
電子添文の効能の文は「中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群 ただし、BMIが27kg/m2以上に該当する場合に限る。」です。
ガイドラインは、体重が減ることとAHIが減ることには明らかな関連があるとし、この薬による体重の減少で睡眠中の呼吸の障害が改善する可能性がある、と説明しています。
ガイドラインには、AHIが20以上の場合の今の標準の治療はPAP療法(マスクで空気を送り込む治療。CPAPなど)だとも書かれています。
量の上げ方と基本の量
始めは週1回2.5mgです。4週間ごとに2.5mgずつ増やし、週1回15mgを基本の量にします。
15mgが合わない場合は、週1回10〜15mgの範囲で量を調整できます。
肥満症で使うときの基本の量は10mgなので、目標の量が違います。打ち方・打ち忘れ・保管の決まりは共通です(打ち方と量の上げ方)。
ガイドラインにある施設と医師の要件
「OSAS の治療以外での、例えば、痩身・ダイエットなどを目的に本剤を投与してはならない。」
ガイドラインは、次の①〜③のすべてを満たす施設で使うべきだとしています。①の施設の要件は、原文から抜き出すと次のとおりです。
- 「循環器内科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科又は内科のいずれかを標榜している保険医療機関であること。」
- 「施設内に、以下の<医師要件>(1)に掲げる学会専門医又は(2)に掲げる学会専門医いずれかを有する常勤医師が 1 人以上所属しており、本剤による治療に携われる体制が整っていること。」
- 「以下の<医師要件>(1)に掲げる各学会専門医及び(2)に掲げる学会専門医のそれぞれから最低1分野に係る学会専門医の関与が必要であり、自施設に所属していない専門医がいる場合は、当該専門医が所属する施設と適切に連携がとれる体制を有していること。」
- 「以下の<医師要件>(1)又は(2)に掲げる各学会のいずれかにより教育研修施設として認定された施設であること。」
- 「常勤の管理栄養士による適切な栄養指導を行うことができる体制が整っている施設であること。実施した栄養指導については診療録等に記録をとること。」
②は院内で薬の情報を管理する体制、③は副作用に直ちに対応できる体制です。
| 医師要件 | ガイドラインの言葉 |
|---|---|
| 臨床の経験 | 「医師免許取得後 2 年の初期研修を修了した後に、OSAS の診療に 5 年以上の臨床経験を有していること。」又は「医師免許取得後、満 7 年以上の臨床経験を有し、そのうち 5 年以上は OSAS の臨床研修を行っていること。」 |
| (1)OSASの診療に関連する学会の専門医 | 日本循環器学会・日本呼吸器学会・日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のいずれか。「日本睡眠学会の専門医を有していることが望ましい。」 |
| (2)肥満症の診療に関連する学会の専門医 | 日本内分泌学会・日本糖尿病学会のいずれか。「日本肥満学会の専門医を有していることが望ましい。」 |
ガイドラインには、この薬の対象になる過体重の人には「心理的なケアやサポートが必要であることが知られている」とも書かれています。
肥満症で使う場合の施設の条件は処方できる医療機関の条件で扱っています。
ガイドラインにある患者の要件
ガイドラインの【患者選択について】から、原文を抜き出します。かっこの後ろは編集部の言い換えです。
- 「ポリソムノグラフィー(PSG)検査の結果から無呼吸低呼吸指数(AHI)が 15 イベント/時間以上又は簡易モニターを用いた簡易施設外睡眠検査(OCST)の結果から REI が 30 イベント/時間の中等症以上の OSAS を有する患者であること。」(病院で一晩かけて行う検査か、自宅などで行う簡易な検査で、中等症以上と確かめられていること)
- 「本剤を投与する施設において当該計画に基づく治療を 3 ヵ月以上実施しても、十分な体重減少効果が得られない患者であること。また、食事療法について、この間に最低 1 回の管理栄養士による栄養指導を受けた患者であること。」(その施設で3か月以上、食事と運動の治療を続けたこと)
- 肥満低換気症候群や心不全で早く始める必要があると判断された人は、「3 ヵ月以上」の要件を満たさなくても、ほかの要件を満たせば考慮できる、とされています。
- 「原則 BMI 30 kg/m2 以上の患者を対象とすること。」(臨床試験でBMI27以上30未満の人が少なかったため。27以上30未満の人では、必要性を慎重に判断するとされています)
ガイドラインは、食事や運動による減量は「PAP 治療などの標準的な治療の代替になるような効果はないものの、AHI の改善に寄与する」としています。
電子添文は医師に、CPAPなどほかの気道の治療を一緒に行うかどうかを、患者の状態に応じて検討するよう求めています。
続けるかやめるかの確認(最大52週)
- 「本剤の投与期間は最大 52 週間とすること。」承認の審査で評価された国際共同の試験の期間が52週だったためです。
- 使っている間も食事療法と運動療法を続け、2か月に1回以上、管理栄養士の栄養指導を受けます。
- 始めてから毎月、体重などを確かめます。3〜4か月使っても体重が減る傾向がなければ、中止します。
- 「本剤の投与開始から 6~7 ヶ月を目安に PSG による OSAS 重症度の確認を行い、改善傾向が認められない場合には、本剤の投与を中止すること。」
- AHIが十分に改善したときは、続ける必要性を慎重に判断し、52週を待たずにやめて食事と運動の管理に移ることを考えます。
- やめた後に悪くなった場合は、食事療法と運動療法を原則3か月以上行ったうえで、必要な場合に限ってもう一度使います。
電子添文も、体重が減っても睡眠中の呼吸の障害が改善しない場合は、漫然と続けず中止するよう求めています。
患者向けの資料には、使っている間は睡眠中の呼吸の障害の程度を定期的に検査し、効果がなければ中止することがある、と書かれています。
保険で使うときの留意事項(保医発0518第4号)
厚生労働省は2026年5月18日付の通知で、保険で使うときに診療報酬の明細書(レセプト)に書く事項を決めました。
- 使い始めるとき:標榜している診療科、専門医が自施設か連携先か、教育研修施設の別、常勤の管理栄養士の免許証番号、医師と患者の要件、食事・運動の治療計画をつくった日、栄養指導を受けたすべての日付
- 使い始めるとき:「本製剤による治療計画(52週以内に投与を中止する計画であること)を作成した年月日」
- 続けるとき:直近の栄養指導の日、何週目の投与か、体重の直近の値、PSGによる重症度の直近の結果と改善の傾向
- もう一度使うとき:やめた日、新しい治療計画、栄養指導の日付、3か月を待たずに再開するならその理由、改めて52週以内に中止する計画をつくった日
試験(SURMOUNT-OSA)の条件と数字
承認のもとになったのは、国際共同の2つの試験です。対象は、BMIが30以上(日本人は27以上)で、AHIが15以上の人でした。
期間は52週間です。体が受けつける最大の量(10mgか15mg)か偽薬を週1回打ち、どちらの群も食事のカロリー制限と体を動かす量を増やすことを行いました。
| 項目 | GPI1試験 | GPI2試験 |
|---|---|---|
| どんな人か | PAP療法を使えない、または使いたくない人(234人) | PAP療法を続けている人(235人) |
| うち日本人 | 薬の群3人・偽薬の群4人 | 薬の群7人・偽薬の群6人 |
| AHI(薬の群、始め→52週) | 54.3→25.2(変化−28.1) | 45.8→16.5(変化−29.4) |
| AHI(偽薬の群、始め→52週) | 50.9→46.8(変化−4.2) | 53.1→45.0(変化−7.9) |
| 体重の変化率 | 薬の群−18.7%、偽薬の群−1.6% | 薬の群−20.1%、偽薬の群−2.5% |
| 何らかの副作用が出た割合 | 薬の群56.1%、偽薬の群24.2% | 薬の群56.3%、偽薬の群21.9% |
52週後の薬の群のAHIの平均は、GPI1で25.2、GPI2で16.5でした。どちらも、中等症の目安の15を上回っています。
この数字は、呼吸が止まる回数が平均で減ったことを示すものです。無呼吸がなくなることや、PAP療法がいらなくなることを示すものではありません。
日本人の参加者は、2つの試験を合わせて20人でした。
主な副作用は、GPI1で悪心23.7%・下痢21.9%・嘔吐17.5%・便秘14.9%、GPI2で悪心20.2%・下痢19.3%・便秘10.9%・消化不良9.2%でした。血糖値54mg/dL未満の低血糖は、薬の群ではどちらの試験でもありませんでした。
肥満症で使う場合との違い
| 項目 | 肥満症 | 睡眠時無呼吸症候群 |
|---|---|---|
| 対象の条件 | 高血圧・脂質異常症・耐糖能障害のいずれかがあり、BMI35以上、またはBMI27以上で健康障害が2つ以上(保険は高血圧・脂質異常症・2型糖尿病の場合に限る) | 中等症以上(AHI15以上)で、BMI27以上(ガイドラインは原則BMI30以上) |
| 基本の量 | 週1回10mg(5〜15mgで調整) | 週1回15mg(10〜15mgで調整) |
| 始める前の食事・運動の治療 | 6か月以上。2か月に1回以上の栄養指導 | 3か月以上。その間に最低1回の栄養指導 |
| 使える期間の上限 | 72週 | 52週 |
| 効果の確かめ方 | 毎月、体重・血糖・血圧・脂質 | 毎月の体重に加え、6〜7か月目を目安にPSGで重症度 |
| 施設の診療科 | 代謝内科・糖尿病内科・内分泌内科・循環器内科・内科 | 循環器内科・呼吸器内科・耳鼻咽喉科・内科 |
| もう一度使う前の治療 | 食事・運動を原則6か月以上 | 食事・運動を原則3か月以上 |
どちらのガイドラインも、痩身やダイエットを目的に使うことを認めていません。
肥満症での期間とやめた後のことは72週の区切りと、やめた後で扱っています。
よく出る疑問
ゼップバウンドを使えば、CPAPをやめられますか?
電子添文は医師に、CPAPなどほかの治療を一緒に行うかどうかを、患者の状態に応じて検討するよう求めています。試験の一つ(GPI2)は、PAP療法を続けたまま薬を使った人たちが対象でした。CPAPを自分の判断でやめず、主治医と相談してください。
肥満症と診断されていなくても対象になりますか?
睡眠時無呼吸症候群の効能は、肥満症の効能とは別に定められています。条件は、中等症以上(AHI15以上)であることと、BMIが27以上であることです。ガイドラインは、原則としてBMI30以上の人を対象にするとしています。
BMIが27以上30未満の場合はどうなりますか?
ガイドラインは、臨床試験でこの範囲の人が少なかったため、診療ガイドラインを参考に必要性を慎重に判断するとしています。保険の通知も、この点に十分留意するよう求めています。
52週たった後はどうなりますか?
52週が使える期間の上限です。やめた後に悪くなった場合は、食事療法と運動療法を原則3か月以上行ったうえで、必要な場合に限ってもう一度使えます。
- 最適使用推進ガイドライン チルゼパチド(ゼップバウンド皮下注)~閉塞性睡眠時無呼吸症候群~ 令和8年5月|厚生労働省(2026-10-31確認)
- 保医発0518第4号「閉塞性睡眠時無呼吸症候群の効能又は効果を有するチルゼパチド製剤に係る最適使用推進ガイドラインの策定に伴う留意事項について」(令和8年5月18日)|厚生労働省(2026-10-01確認)
- ゼップバウンド皮下注アテオス 電子添文(2026年9月改訂 第6版)|PMDA(2026-10-31確認)
- ゼップバウンド皮下注アテオス 患者向医薬品ガイド(2026年5月更新)|PMDA(2026-10-01確認)
- 審査報告書 ゼップバウンド皮下注(2026年5月18日一部変更承認)|PMDA(2026-10-01確認)
- ゼップバウンドの効能追加に関するお知らせ(2026年6月1日)|田辺ファーマ(2026-10-01確認)
- Malhotra A, et al. Tirzepatide for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea and Obesity. N Engl J Med. 2024;391(13):1193-1205|PubMed(抄録)
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